はじめての遺言
「前もって遺言書を作っておけば、相続争いを防ぐことができたのに…」
この様なケースは珍しくありません。
遺言は法定相続に優先する効力を持ちます。
ここでは遺言について解説いたします。
遺言が必要なとき
遺言とは、どんな場合に必要なのでしょう? 以下の6つの場合が考えられます。
1.会社や事業を特定の人に継がせたい場合
後継者に遺言で財産を残さないと、会社や事業の資産が相続により分割されてしまい、会社や事業の存続そのものが不可能になってしまいます。特に農家の場合は、農業後継者に遺言で相続させることが不可欠です。
2.法定相続人に遺産をあげたくない場合
例えば、長男は一生懸命両親の面倒をみているが、二男は浪費癖があり、散々親不孝を重ねているとします。その場合に、長男に遺産を全部相続させようと思っていても、遺言がなければ二男も相続することになります。(ただし、長男に遺産を全部相続させても、二男には遺留分があります)
3.法定相続人以外の人に遺産をあげたい場合
例えば、既に死亡した長男に嫁がいて、これまで家のために献身的に尽くしてくれるので、そのお礼を遺産で示したいといっても、嫁には相続権がありません。遺言で遺産をあげることを明確に記す必要があるのです。また、相続人が誰もいない場合、遺産は国のものになってしまいます。親しい人やお世話になった人にあげたい場合も、遺言が必要になってきます。
4.社会のために遺産を活かしたい場合
社会福祉法人や学校法人、日本赤十字社、ユニセフ等に財産を寄付したい場合や、お寺や神社等で遺産を有効に利用してほしいと望んでいる場合も、遺言で明確にしておく必要があります。
5.相続人の間に不和がある場合
相続人同士(親子、兄弟姉妹等)の間で不和がある場合、遺言できちんと相続の仕方を示しておかないと、死後大変な争いとなってしまいます。「骨肉相食む」争いをさせないために、遺言が欠かせません。
6.生活能力に不安がある相続人がいる場合
例えば、老妻や心身にハンディを抱えた子供がいる場合など、1人で生活を維持するのが困難な人が相続人にいる場合、その人の生活を支える必要があります。その人にできるだけ遺産がいくように、遺言で記しておく必要があります。
遺言の効力
「きちんとした遺言書を作ってさえあれば、相続争いを未然に防げたのに…」
こんなケースは決して珍しくありません。遺言は法定相続に優先する効力を持ちます。被相続人が一生考えた末の遺志を記した遺言があれば、多くの相続人はその遺志を尊重する気持ちを持つものです。
遺言の効力とは?
遺言は遺言者が原則として自由に書くことができます。しかし、法的な効力が生じる事項は民法で定められています。民法では、遺言できる行為として、次の10種類を挙げています。これ以外のことを遺言の内容としても、法律上の効力は生じません。
身分に関する事項
- 認知 …
婚姻外子(胎児も含む)がいる場合、遺言で認知できます。認知によって子供は相続人になれるのです - 後見人指定及び後見監督人の指定 …
自分が死亡すれば親権者がなくなる未成年の子がいる場合に、その子の親代わりとなる者、及びその者を監督する者を指定することができます
相続に関する事項
- 相続人の廃除及び廃除の取り消し …
推定相続人を廃除したり、過去に排除したけれども、それを取り消すときは、その請求を遺言に載せられます - 相続分の指定または指定の委託 …
法定相続分通りではない相続を考えている場合、遺言書で各相続人の相続分を指定することが可能。相続分の指定を第三者に委託することもできます(遺留分の規定に反することは不可) - 遺産分割方法の指定または指定の委託 …
例えば、自宅は長男、株式は二男にというように、各財産を誰に相続させるかを指定できます。また、分割方法を決めることを第三者に委託することもできます - 遺産分割の禁止 …
これにより相続開始後5年間まで遺産の分割を禁止することが可能になります - 相続人間の担保責任の指定 …
財産の分割後にその財産に欠陥があって損害を受けた場合、相続人同士は互いの相続分に応じて補償し合うことが義務付けられています。遺言でその義務を重くしたり軽くすることが可能になります - 遺贈の減殺方法の指定 …
遺留分が侵害された場合、遺贈はすべて一律に贈与より前に遺贈額に按分して減殺されるという民法の定めを変えられます - 遺言執行者の指定または指定の委託 …
遺言の内容を実行してもらう遺言執行者を誰に依頼するかを指定できます。子供の認知など、他の相続人の協力が得られづらいときに効果的。その指定を第三者に委託することもできます
財産処分に関する事項
- 遺贈、寄付行為 …
内縁関係にある者や特別に貢献してくれた者など、相続人以外にも財産を贈与したいときに遺言書による遺贈という方法が求められます。また、財団法人を設立するために財産を提供するなど、寄付の意思を表すことができます
遺言に記載しても効力がないものとは?
「遺骨を海にまいてほしい」「葬式はできるだけ豪華に」「愛犬の世話を頼む」「死後、臓器を提供したい」というような、単なる希望は遺言事項に該当しません。
しかし、これらの事項を遺言書に盛り込むと、遺言書が無効になるわけではありません。その内容を実行するかどうかは、遺族の判断に委ねられます。よって、必ず実行されるという確証はありません。ただし、遺言書に一言入れておくことで、遺族が被相続人の遺志をくんでくれる可能性はあります。
遺言書に関しては、肩肘張らずに懸念事項や希望などを盛り込んでおくのもよいでしょう。
遺言の種類
ひとくちに遺言といっても、一般的には3つの方法があります。
こんなケースは決して珍しくありません。遺言は法定相続に優先する効力を持ちます。被相続人が一生考えた末の遺志を記した遺言があれば、多くの相続人はその遺志を尊重する気持ちを持つものです。
1. 自筆証書遺言
遺言をする人自身が「全文」「日付」「氏名」を自筆し、捺印します。費用は一切かからず簡単です。一人で作成できるので、遺言を書いたことを秘密にできます。しかし、短所も数々あります。紛失の恐れがあり、第三者による隠匿、変造の危険性もはらんでいます。せっかく心を込めて遺言をしたためても、文意がうまく伝わらなかったり、形式に不備があると無効になってしまいます。そして、自筆証書遺言は家庭裁判所による検認手続きが必要となります。
メリット
- 自筆で書けばよいので、費用がかからない
- いつでも書くことができる
- 内容や存在を秘密にできる
デメリット
- 内容が不備になる可能性があり、無効になったり後に紛争の種を残してしまう危険性がある
- 誤りを訂正した場合には、訂正した箇所に押印し、さらに「どこをどのように訂正したか」ということを付記して、そこにも署名しなければならないというように方式が厳格。方式不備で無効になってしまう危険がつきまとう
- 全文自書しないといけない(パソコンやワープロ、タイプライターは不可)ので、病気等で手が不自由になり、字が書けなくなった方は利用できない
- 自筆証書遺言は、遺言書を発見した者が必ず家庭裁判所にこれを持参し、相続人全員に呼出状を発送した上、遺言書を検認するための検認手続きが必要。一方、自筆証書遺言を発見した者が、自分に不利なことが書いてあると思ったときなどには、破棄したり隠匿や改ざんをしたりしてしまう危険がないとはいえない
2. 公正証書遺言
公証人役場で公証人によって作成してもらう公正証書。若干の費用がかかり、2名以上の証人が必要になりますが、最も安全で確実な遺言といえるでしょう。原本が公証人によって保管されるので、紛失や変造の恐れがありません。
遺言の有無について争う余地はゼロ。基本的に公証人が遺言者の意をくんで遺言を作成するので、文意解釈の相違が生じません。自筆証書遺言と違い、家庭裁判所による検認手続きが不要です。
メリット
- 公証人のアドバイスの下、法律的に見てきちんと整理した内容の遺言を作成できる。
方式の不備で遺言が無効になる恐れがない - 家庭裁判所で検認の手続きを経る必要がないので、相続開始後速やかに遺言の内容を実現することができる
- 原本が必ず公証役場に保管されるので、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされる心配がない
- 体力の低下や病気等で、被相続人が自書できなくても、公証人の代書にて作成できる
デメリット
- 公証人等への費用がかかる
- 作成手続きが煩雑
- 遺言書作成時には2人の証人が必要なので、内容を完全には秘密にできない
3. 秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしておけます。遺言者が自分で作成した遺言書に署名捺印の上で封印し、公証人と2名以上の証人の前に提出。公証人に遺言書であることを述べて証明してもらいます。
メリット
- 遺言内容自体を秘密にできる
- 封書の中の文書は自筆でなくても、パソコンやワープロでも差し支えない
デメリット
- 内容について公証人のチェックが入らないので、無効や後の紛争の恐れがある
公正証書遺言のポイント
遺言のなかで最もポピュラーな公正証書遺言とは何か? 簡単なポイントを勉強しましょう。
1. 公正証書遺言は公証人が書いてくれる
遺言者は何も書く必要がありません。公証人が遺言の内容を聞いて、遺言者に代わって証書を作ります。
数人の相続人について、遺言者が自由に相続の内容を定めることができます。1人の相続人だけにすべての財産を与える遺言もできます。
遺言者はいつでも遺言を取り消せます。また、遺言で与えることになっている財産を売って消費してしまうことも自由です。
2. 遺言執行者は後継者が便利
財産を受け取る相続人が単独で建物や土地の名義変更ができるように、後継者を遺言執行者に指名することができます。
この場合は、財産をもらう人の印鑑だけで名義書き換えができ、他の相続人の印鑑をもらう必要がありません。
3. 遺留分をどうするか?
遺留分権利者が遺言の内容に不服を持っていても、相続開始後に取戻を主張しないと、権利は時効で消滅します。
遺留分についての争いは、裁判所で解決してもらえます。その場合、遺留分権利者に一部の遺産を返還することになるかもしれません。しかし、金銭があればそれで賠償すればよく、不動産等の現物を返還する必要はありません。
また、争いを未然に防ぐために、あらかじめ遺言のなかで「遺留分権利者に遺留分に相当する額の金銭を月賦などで支払う」といったことを決めておくこともできます。
4. その他の事項
遺言で遺産をもらった人は、相続人同様、贈与税でなく相続税を払えばよいのです。相続税の税率と基礎控除額は贈与税よりはるかに有利です。
遺言者が署名した公正証書原本は、公証役場が永久的に保存します。正本と謄本は遺言者に渡します。これは紛失しても問題なく、再交付の請求ができます。
生命保険金と退職金は、約款や会社規程により受取人の指定があるので、遺言財産には含まれません。
市街化調整区域内の農地を相続人以外に贈与することは、ほとんどの場合、農業委員会の承認が得られないことを覚えておきましょう。
遺留分とは
例えば「妻に全財産を相続させる」「事業を継いでくれる三男にすべての不動産を相続させる」「生涯を通してお世話になった地域のために遺産を役立ててもらいたい」というように、遺言にどんな内容を書こうと原則的に自由です。つまり、特定の相続人に遺産を集中させる旨を記すことができます。
しかし、その際、何の財産も相続されなくなった相続人が生活に窮する可能性があります。そこで民法では、配偶者や子供、直系尊属(父・母等)に関しては、遺言書の内容に関係なく一定の範囲内で最低限の相続分を保障しています。これが遺留分です。遺言を記す際は、その他の相続人の遺留分について注意する必要があります。
例えば「長男に全財産を相続させる」と遺言で記した後、相続が発生すると、他の相続人から「遺留分の減殺請求」が来る場合があります。
したがって、遺言では「遺贈は総額の何分の一とする」よりも、個々の財産ごとに受遺者を決める方が具体的でベターです。
遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相続人に対して「遺留分減殺請求」=遺留分に相当する財産を請求できます。この請求は相手方に対して書面にて行います。重要な書面なので、配達証明付きの内容証明郵便で送りましょう。
減殺請求を受けた側は、遺留分を侵害した部分についての遺贈または贈与が無効になり、その部分について返還する旨の意思表示をする必要があります。意思表示をしなければ、当然「争族」へと発展してしまいます。
また、遺言に代わるものとして「死因贈与契約」があります。これは、例えば「甲が死亡したときにA土地を乙に贈与する」というように、贈与する人の死亡を期限の到来として贈与の効力が生じる契約です。生前贈与と同じく死因贈与も契約なので、両当事者の合意を要し、合意の内容を契約書として作成して行います。
死因贈与契約は遺贈と同じく、贈与税ではなく相続税の課税対象となります。死亡を原因として遺産を取得する点で実質的差異がないからです。
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